裸電球の5月


部屋に固定電話を引いてなくて、携帯はまだ普及しておらず、ポケベルが流行り始めていたが持っておらず、僕の外部との電気的通信手段は、公衆電話のみだった。

 

灯りを消せば、柱と土壁の隙間から隣の住人の部屋からの光が細く差しこむプライベート感のないそのアパートに、それまでの人生から逃げるように転がり込んで、はじめて見た夢、だったかもしれない。

 

・・どこかの、天井の低い屋根裏部屋で、毛布ひとつ・・僕は寝ていた・・僕の胸に顔をうずめて一緒に寝てる女性・・金髪のショートヘアの女の子。

 

僕は眠っているその子を起こさないように毛布から抜け出て、木枠の格子の窓の外を眺めた。赤いネオンの看板。道には白い雪が積もってて・・

 

現実世界ではその時は5月・・丁度今の時期・・でも、その夢の中では、季節は冬だった。

 

一緒に寝ていたその女の子の寝顔はかわいくて・・その子は今、この場所とこの僕を自分の居場所にしているけれど、その子にとってこの場所とこの僕は一時的な避難場所にすぎなくて・・いつかここから去る・・その子が去ったら、僕はその毛布で、ひとりで寝ることになる・・

 

その時自分は淋しくなる・・淋しくなった時の自分に備えて・・この部屋に、今自分はひとりぼっちになってる・・そんなつもりで、窓の外をみていた。

 

時刻は真夜中で、でも、部屋の中は、雪の光とネオンの赤が入り込んで、眠りを妨げない程度に明るかった。天井から伸びた黒いコードの先には、裸電球がぶら下がっていた。

 

きっとその、夢のなかの女の子がそうであったように、その時の僕は、どこに行けばいいのかわからなかった。何をすればいいのか、わからなかった。

 

あれから随分と月日が経った今でも、どこに行けば・・何をすれば・・そんな自分になる時は多々あって・・で、そんなとき・・あの時の夢を思いだして・・とりあえず、あの裸電球のスイッチを、入れる。

 

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