季節は新緑というか・・とある五月の初頭・・
それまでの人生からの逃げ場所、みたいな感じで借りたアパートには、水場が2カ所。
キッチンと、トイレ・・その部屋には風呂がなかった。
だから銭湯に通った。ひどい水虫になったりした。
そのアパートの一階には大家さん家族が住んでいて、二階が賃貸で貸している3部屋のアパートで・・
僕は角部屋の両住人に挟まれた、まん中の部屋に住んでて・・
夜は電気を暗くすると、柱と壁の隙間から、隣の部屋の灯りが細長く見えた。
入居してすぐの時、大家さん家族の奥さんが僕の部屋に来て・・
「トイレ、水の流れがあんまりよくないの。だから、水は2回流して。水道料金は変わらないと思うから」と言った。
・・二回か・・めんどくせえな・・
別に、レバーを2回、クイッと引き回すだけだが、なんだか・・めんどくせえな・・と僕は思った。
水はタンクから重力落下で便器に流れる・・たしかに、流れ、悪い・・思った。
入居して、何日かして、夜・・悪い水の流れが・・
流れが悪い、というより・・流れない・・ちょろちょろとしか、流れない・・
タンクの蓋を開けると、水はちゃんと溜まっている・・なにか詰まってるのかな?
底の方に、なにやら黒っぽいものが見える・・手をタンクの水に突っ込んでみた・・
なんだろ・・モソモソとした・・ゴミが溜まってるのかな?しかし・・ぬめり気のあるモソモソの、その何かは、手でつかんで引っこ抜こうにも、ぬめり気ゆえに、引っこ抜けなかった。
一度トイレから出て、工具のプライヤー・・、あったあった・・これで、いけるかも・・
プライヤーを握って、タンクに手を突っ込んだ・・モソモソとしたものは、うまくプライヤーに挟まれ、意外に簡単に、引き抜くことができた・・コウモリ・・
いったい、どうして・・
僕はキッチンの流しの横に、コウモリのその死骸を置いて、その夜は寝た。翌朝、部屋がやけに、生臭かった。
この、とある五月の・・の、「とある」とは・・具体的には、西暦1995年です。
⇧ぐるり大宮、土曜の昼・・です。