とある五月の初頭に、

f:id:alhamda:20211205132743j:plain


季節は新緑というか・・とある五月の初頭・・

 

それまでの人生からの逃げ場所、みたいな感じで借りたアパートには、水場が2カ所。

 

キッチンと、トイレ・・その部屋には風呂がなかった。

 

だから銭湯に通った。ひどい水虫になったりした。

 

そのアパートの一階には大家さん家族が住んでいて、二階が賃貸で貸している3部屋のアパートで・・

 

僕は角部屋の両住人に挟まれた、まん中の部屋に住んでて・・

 

夜は電気を暗くすると、柱と壁の隙間から、隣の部屋の灯りが細長く見えた。

 

入居してすぐの時、大家さん家族の奥さんが僕の部屋に来て・・

 

「トイレ、水の流れがあんまりよくないの。だから、水は2回流して。水道料金は変わらないと思うから」と言った。

 

・・二回か・・めんどくせえな・・

 

別に、レバーを2回、クイッと引き回すだけだが、なんだか・・めんどくせえな・・と僕は思った。

 

水はタンクから重力落下で便器に流れる・・たしかに、流れ、悪い・・思った。

 

入居して、何日かして、夜・・悪い水の流れが・・

 

流れが悪い、というより・・流れない・・ちょろちょろとしか、流れない・・

 

タンクの蓋を開けると、水はちゃんと溜まっている・・なにか詰まってるのかな?

 

底の方に、なにやら黒っぽいものが見える・・手をタンクの水に突っ込んでみた・・

 

なんだろ・・モソモソとした・・ゴミが溜まってるのかな?しかし・・ぬめり気のあるモソモソの、その何かは、手でつかんで引っこ抜こうにも、ぬめり気ゆえに、引っこ抜けなかった。

 

一度トイレから出て、工具のプライヤー・・、あったあった・・これで、いけるかも・・

 

プライヤーを握って、タンクに手を突っ込んだ・・モソモソとしたものは、うまくプライヤーに挟まれ、意外に簡単に、引き抜くことができた・・コウモリ・・

 

いったい、どうして・・

 

僕はキッチンの流しの横に、コウモリのその死骸を置いて、その夜は寝た。翌朝、部屋がやけに、生臭かった。

 

この、とある五月の・・の、「とある」とは・・具体的には、西暦1995年です。

 

www.youtube.com

⇧ぐるり大宮、土曜の昼・・です。